熊谷を代表する写真家・佐藤虹二を紹介する企画展「没後70周年 心象の写真家・佐藤虹二展」が現在、熊谷市立熊谷図書館(熊谷市桜木町2)で行われている。
熊谷市立熊谷図書館3階美術展示室で開催中の企画展「没後70周年 心象の写真家・佐藤虹二展」
戦前・戦中・戦後を通じて活躍した佐藤虹二の作品を振り返り、活動遍歴に着目した関連資料と合わせて展示する企画展。展示する作品と資料は、写真71点、コンタクトシート16点、撮影機材20点、関連資料4点の111点。担当学芸員の蔵持俊輔さんによると、1911(明治44)年、熊谷市本石で自転車卸業を営む家に生まれた佐藤さんは家業の傍ら生涯を通して写真を撮った。当時自転車は高価で、住み込みの家政婦がいるほど商売は繁盛。一軒家が建つほど高額な「ライカ」など複数のカメラを所有できる環境にあったという。熊谷白陽写真会で腕を磨き、写真雑誌への投稿で受賞を重ねて頭角を現し、評論家・斎藤鵠児に勧められ東京写真作家連盟に加入。戦前は新興写真というモダンな作風で知られ、終戦時には空襲で壊滅的被害を受けた熊谷市街地を記録に残した。戦後も埼玉県美術展の審査員を2期務めるなど埼玉の写真界を引っ張ったが、肺結核のため43歳で亡くなった。
注目は、佐藤自身が焼き付けたオリジナルプリント。作品(ニュープリント)と比べられるよう上下に並べて配置している。担当学芸員の蔵持俊輔さんは「オリジナルプリントは佐藤さんが焼き、ニュープリントは後年にプリントされた。佐藤さんのオリジナルプリントは、焼く時に手が加えられており、影を入れたり、気泡を炭で埋めたり、雲を作ったりと絵画的な作業が施されている」と説明する。
もう一つの目玉はコンタクトシートの展示。コンタクトシートとは、フィルムを実寸で印画紙に焼き付け、撮影年月日、時間、使用カメラ、現像液などの情報を記載した記録で、撮影状況や制作過程が一目で分かる。蔵持さんは「佐藤さんは非常に几帳面で、センスが優れている。作品だけでなく、どういった状況の中で作品を作られているのかを展示から深読みしてもらえたら」と話す。代表作「黒マントの男」では、複数のポーズを試しながら最終的な一枚を選び出す過程や、「愛犬」では撮影中に犬が逃げ出すハプニングも含めた連続写真が確認でき、作品が生まれる瞬間を追体験できるという。
「名だたる美術館に収蔵される作品を生んだ写真家が熊谷にいたことを知ってもらいたいという思いもあるが、もっと気軽に立ち寄ってもらえたら。今はスマホで写真を撮る機会が増えているが、佐藤さんの構図の取り方は、いい写真を撮りたいと思った時に参考になると思う。ヒントを見つけに来てほしい」とも。
ヒューストン美術館、東京都写真美術館、島根県立美術館へ佐藤作品を紹介したという熊谷市出身の写真家・新井英範さんは「佐藤自身のオリジナルプリントやコンタクトシートが見られる。貴重な機会」と評価する。
開催時間は10時~17時。11月30日まで。入場無料。11月28日13時30分から「記念講演会」(申し込み先着順)を行う。