高校生が地元の魅力ある歴史を発信する「妻沼聖天山『実盛公に捧(ささ)ぐ』動画プロジェクト」の撮影が10月3日、妻沼聖天山と周辺で行われた。
熊谷市妻沼地区の高校生らが地元にゆかりの歴史人「斎藤別当実盛」の琵琶語り「実盛公」を紹介しながら写真と動画で「実盛公」と地元の魅力を発信する取り組み。実盛公の思いを普及する有志グループ「まろく会」が企画発案した。
平安時代末期の武将「斎藤別当実盛」公は、1179年に妻沼聖天山を開山した人物。1183年、「篠原の戦い」で木曽義仲の軍と対峙(たいじ)して討ち死にを遂げる悲劇は、「平家物語」や能楽「実盛」などで語り継がれている。
プロジェクトには妻沼育ちの高校生8人が参加した。幼い頃から祭りや学校行事、節目など「聖天様」に親しんできたという。普段は別々の学校に通いながらも「妻沼の魅力はまだまだ知られていない」「地域の歴史をもっと知り発信してみたらどうか」と集まった。
当日は鶴田流薩摩琵琶奏者の須田隆久さんを招き、朝10時から聖天山歓喜院御本殿で演奏を奉納。貴惣門(きそうもん)、実盛公銅像など境内、本坊本堂のほか斉藤氏館跡実盛塚、斎藤塚など実盛公の伝承がある史跡を10カ所ほど巡り撮影した。
プロジェクト全体を通してメンバーをまとめたのはフォトグラファーを目指しているという高校3年生の新井躍大さん。新井さんは「聖天様でプロ奏者を撮影するということに緊張したが、気さくに話をしてくださり、撮影が進むうちに(須田さんの)大切にされていることや思いをくみ取ることができた」と撮影を振り返る。照明や音響など、それぞれ得意分野を生かし撮影に挑んだメンバーからは「途中でハプニングがあったり思うようにいかなかったりしたが、それもいい経験。動画編集も頑張りたい」「小さい頃のようにみんなで会う機会は減ったが、プロジェクトに参加して同じ目標に向かい、一体感が生まれてよかった」と感想があった。
夕方からは本殿正面の「石舞台」で撮影、近所の人たちも演奏を聞きに訪れた。新井さんは「近所で『聖天様でやるよ』と声を掛ければいつの間にか人が集っている。妻沼のまちは聖天様を中心に栄え、人々の暮らしの中に聖天様があると感じられた」と話していた。
平家物語の切ないエピソード「実盛の最期」の抜粋を演奏した須田さんは「実盛公が建立したこの場所で琵琶語り『実盛公』を奉納演奏できたことにご縁とお導きを感じている。物語の内容は勇ましく聞こえるが、戦いを鼓舞する意味は今の時代にはない。戦争賛美ではなく争いは悲しい、争いはやめようという思い、鎮魂、供養の意味がある」と話す。撮影について須田さんは「高校生の熱意に圧倒された。コロナ禍で打ち合わせもままならなかったが、撮影が進むうちにのめり込み、より良いものをと妥協を許さない姿勢に刺激を受けた。やり切った。作品が楽しみ」と振り返った。
「まろく会」の高柳紀子さんは「動画発信したいと子どもたちに声を掛けたところ、不思議なご縁がつながり、得意分野を生かせる子が自然に集まった。本気で取り組む姿に大人はほれぼれし、世代を超えて一つの作品作りができることに感謝している」と話す。
プロジェクトをサポートした熊谷市市史編さん室の蛭間健悟さんは「妻沼地区を盛り上げようと高校生が集まり活動したことに大きな意味があると思う。この経験をきっかけに将来もまちづくりに関わってほしい」と期待する。「熊谷には熊谷次郎直実や成田長親など武将にゆかりのある場所が他にも存在する。まちづくりのきっかけとして地域の歴史に興味を持ってもらえれば」とも。
今後は撮影した内容を編集し動画作品として公開する予定。