地域に伝わる言い伝えに由来する「しりあぶり柴燈護摩(さいとうごま)」が6月6日、「岩殿観音」の名で知られる東松山市の「巌殿山正法寺」(東松山市岩殿)で行われた。
言い伝えは、およそ1300年前に開山した巌殿山に伝わる「田村麻呂の悪竜退治」の伝説。しりあぶりは、坂上田村麻呂がこの地を訪れて悪竜を退治した際、住民がまんじゅうでねぎらい、季節外れの雪で凍えた体を温めるため尻をあぶりながらまんじゅうを食べたことに由来する。たいた火で尻をあぶりまんじゅうを食べることで、厄を払うという。
寺では、厄除開運、無病息災を願い各家庭で語り継がれてきた「しりあぶり」の風習を大切に伝えたいと、2018(平成30)年から年中行事として行い、広めている。
当日は、ほら貝を吹きながら登場した山伏姿の僧侶が結界を結び清めた場所に「不動明王」や「千手観音」を招き、煩悩に見立てた木々への点火で炎が上がる中「観音経」と「般若心経」を唱えて祈願。参加者らが願い事を書いた護摩札を手に炎に尻を向けて一心に祈る様子が見られた。
昨年は新型コロナウイルス感染症の影響により山内僧侶のみで行ったが、今年はマスクの着用や入口での手指の消毒、まんじゅうはその場で食べず持ち帰ってもらうことで感染対策を徹底。参加の呼び掛けを最小限にとどめ、檀家や近隣住民が訪れた一方、家族連れを中心にたまたま居合わせたという人も「しりあぶり」参加した。
しりあぶりでは、燃え盛る炎が人々の煩悩を燃やし尽くして「疫病退散」や「無病息災」の願いを観音様へ届けるとされる。中嶋政海住職は「コロナ禍の中で気持ちが沈みがちになる人もいると思うが、このしりあぶり柴燈護摩で、少しでも気持ちが上向いたのでは。平穏無事に過ごせることを願いたい」と話した。「語り継がれてきた地域に残る言い伝え。市内の小学校では校歌にも歌われている。今後も行事として伝えていきたい」とも。